図書館コラム

アメリカ図書館界を俯瞰してー2017(その5)

アメリカの大学・学校・公共図書館それぞれの状況、および図書館界全体が直面する課題や最新のトレンドについて簡単にご紹介します。
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※この内容はアメリカ図書館協会(American Library Association, ALA)が発行する『State of America's Libraries Report 2017』より一部抜粋し翻訳したものです。より詳細な情報を知りたい方は、原典をご参照ください。

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■アメリカ図書館界トレンド&課題 早見表

●児童またはティーンサービス
a) フェーク・ニュース ニュース・サイクルの加速とソーシャルメディアが提供する容易な情報へのアクセスの相乗効果により、 虚偽の情報を見分けることは非常に難しくなっています。 図書館はこのような問題を焦点を充てている団体(National Association for Media Literacy Education やThe Lampなど)との連携により、現場が必要としているリソースを発信しています。


b) 多様性 図書館は多様性を受け入れ、地域のためにセーフ・スペースを提供しています。 「みんなウェルカム」のメッセージを館内のポスターやサイネージを使って発信しながら、 『社会正義のための読み聞かせキット』(Storytime for Social Justice Kit)などの寛容を テーマにしたリソースを提供したり、ALA自らがブックリスト作成するなどしています。


c) メディア・メンター (Media mentors) ピュー研究所の調査によると、親の47%が子どもに教えるためのデジタルに関する知識に対し、 「消極的」あるいは「準備不足」と答えています。この状況を鑑みると、 ユース(youth)サービス司書が親またはその他の保護者のメディアメンターになる必要があります。


d) メーカースペースなどの体験を促進する空間 技術の発達や最新のトレンドに追いつくために、図書館の学習環境は引き続き変化しています。 インフォーマルまたはコネクティッド・ラーニングを支援するために柔軟で適応力のある空間や、 STEM系の学習を促進するためのメーカースペースなどがそれに当たります。 スペースがない図書館でも、ポップアップメーカースペースや モバイル・メーカー・カート、メーカー・バックパックといったイノベイティブな方法で対応しています。


e) 知識格差 低所得者層の子どもたちは、その所得の低さから学習のためのリソースにアクセスることができないために、 この新しい時代のなかで仕事し、生き抜くための準備が足りないままに学校を卒業する傾向にあります。 図書館は技術や情報へのアクセスを担保することでこの知識格差を埋めることができます。 また、ティーンのプライバシー権を守ることも図書館の大切な使命として捉えています。


●公共プログラム
f) STEM教育 生涯教育を支える図書館では、STEM教育に重きを置いた体験型ワークショップを開催しています。 こういった人の交流が発生するワークショップは、好奇心を育み、市民と専門家の間に存在する壁を崩し、 利用者が生活全般において使えるスキルの構築を促進します。一例:サイエンスカフェ


g) 金融の知識 おカネというものは誰しもが関連するものですが、多くの人は金融に関する知識が乏しいため、 将来に備えるための賢い選択ができません。この状況を打破すべく、 ALAのパブリック・プログラム・オフィスは、金融業規制機構の投資教育基金と連携して、 Thinking Moneyという移動展示プログラム(a traveling exhibition)を構築しました。 このプログラムでは、ティーンを中心にその親や保護者、そして教育者を対象にした金融リテラシー講座が 開かれ、楽しく金融の知識をつける機会を提供しています。


h) 普段関わることが少ない科学の知識 ALAはこのほかにも、NASAの協力のもと、Discover Space: A Cosmic Journeyという移動展示プログラムを構築、 普段は宇宙についてほとんどかかわりのない子どもたちを対象にワークショップを開いたり、 子どもたちが直接専門家や航空飛行士に質問できる機会を提供したりしています。


●知的自由
i) 有害図書 2016年、報告があった有害図書として除籍を求める要求の数は323で、 そのような要求の根拠として挙げられたテーマは「性的表現」が多かったのですが、 一方、2015年は「多様な人口(diverse population)」でした。


j) 大学における知的自由 ある調査によると、大学における言論の自由は今もある程度尊重されているが、 脅迫といった暴力行為から無縁ではないとのこと。また、知的自由に対する学生の意識が低下する一方、 社会正義に対する意識は高まりつつあるという調査結果が出ています。


●公平性、多様性、インクリュージョン
k)多様性を育むためのツール 今回のレポートでも頻出する多様性を担保するため、 ALAの多様性・リテラシー・アウトリーチ・オフィスは図書館職員向けのツールとして Libraries Respondというリソースを構築しました。


●テレコミュニケーション
l) ネットの中立性 連邦通信委員会に対し、ネット・ニュートラリティー(中立性)の賛同者が送った抗議文によると、 ネットの中立性を維持することは下記の価値を担保することになると主張しました。

〇競争

その規模によらず、すべての企業が公平にネットにアクセスすることは、健全な競争を可能にします。

〇イノベーション

ネット・ニュートラリティーは企業の新規立ち上げや新しい技術の開発を可能にします。

〇言論の自由

万人が公平にアクセスできるネットは、民主主義の基盤となる言論の自由を守ります。

〇平等なアクセス

ネット・ニュートラリティーは、ネット上のコンテンツやウェブサイトへのアクセスが個人の趣味趣向および必要性に基づくものであり、大きなISP(インターネット・サービス・プロバイダ)の価格設定に影響を受けないことを担保します。


●図書館を支援するアクション
m)図書館が直面する挑戦を乗り越えるためにできること本レポートの最後に、図書館をよりよくするために人々ができることが4点挙げられています。

1)予算措置

2017年度のLabor, Health, Human Services, Education and Related Agencies Appropriation billのなかでLibrary Services and Technology Act (LSTA)に措置されている186.6百万ドルおよびInnovative Approaches to Literacyプログラムに 措置されている27百万ドルに賛同を示すように促しています。

2)著作権

マラケシュ条約を今すぐ批准し、国内の法整備を進めることで視覚障害者の読書環境の改善に努めるように促しています。

3)政府が発信する情報

Fair Access to Science and Technology Research Act、その他関連法案を可決し、政府が発信する情報に無償でアクセスできる環境づくりを推奨しています。 4)プライバシーと監視

米国愛国者法、外国情報監視法(FISA)、そして電子通信ンプライバシー法(Electronic Communications Privacy Act)で侵害された利用者のプライバシー権を 再び確立する必要するために、ALAは電子メールプライバシー法(Email Privacy Acts of 2015)の制定とFISAの702項の改革を推進します。


RESOURCE: American Library Association, "State of America's Libraries Report 2017," accessed March 7, 2018, http://www.ala.org/news/state-americas-libraries-report-2017.