図書館コラム

アメリカ図書館界を俯瞰してー2017(その3)

アメリカの大学・学校・公共図書館それぞれの状況、および図書館界全体が直面する課題や最新のトレンドについて簡単にご紹介します。
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※この内容はアメリカ図書館協会(American Library Association, ALA)が発行する『State of America's Libraries Report 2017』より一部抜粋し翻訳したものです。より詳細な情報を知りたい方は、原典をご参照ください。

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■学校図書館=虚偽の情報に対抗するセーフ・スペース

●学校図書館が直面する課題
政治的に不安定な状況が続く中、学校図書館は大きく次の3つの課題を抱えています。
1)フェイク・ニュース(メディアまたはメディアに扮した情報源が発信する虚偽の情報)
2)拡大傾向にある不寛容(intolerance)
3)予算


●学校図書館=セーフ・スペース:社会の不寛容への対策
アメリカ社会全体に不寛容が広がっていますが、学校図書館はそんな中で 全ての学生および教員のためのセーフ・スペース(多様性が受け入れられる空間)を提供し、 学生が情報を探求、選択、そして正確性と客観性において評価するプロセスを 支援する役割を担っています。


●情報リテラシーの喫緊性と新しい学習者の姿
スタンフォード大の歴史教育グループが、中学2年生から大学卒業までの学生を対象に実施した調査によると、 多くの学生がインターネットに掲載された情報の真偽を読み取ることができないことが判明しました。 広告とニュースの記事との見分けがつかず、情報源を断定することができないというのです。 このような状況下で図書館は、授業カリキュラムに沿って情報の評価方法を指導します。 ALA内のAASL(アメリカ学校図書館協会)が発表した「21世紀における学習者のためのガイドライン」は、 学生は下記の4つのスキルを身につける必要があるとしています。
1)問いを立て、批判的に思考し、知識を得る
2)論理的に結論を導きだし、正しい情報を基に判断し、新しい状況に知識を適用し、新しい知識を生成する
3)知を共有し、民主主義社会の一員として倫理的かつ生産的に参加する
4)個人的、そして審美的成長を追求する


●学校図書館の設置状況、司書の数、そして予算
国立教育統計センターによると、公立学校のおよそ90%に図書館(室)が設置されている一方で、 私立の学校においてはその割合は49%に過ぎません。また、学校図書館で働く司書の数は、 図書館司書職全体(館種を問わない)で雇用されている143,100人のうち、51,516人を占めるとのことです。

なお、予算については依然として右肩下がりの傾向にありますが、一方で、ある調査によると、 学校図書館の予算が2013-2014年の$6,970から2015-2016年には$8,315に増加したという報告もあり、 一抹の希望があるとレポートはまとめています。 加えて、オバマ前大統領が推進したEvery Student Succeeds Act (ESSA)の中には 図書館司書を特殊指導支援要員とし、図書館への予算措置を認める文言も含まれるため、 AASLはESSAの分析を進めており、各館が使うことができるリソースに関する情報を発信しています。


RESOURCE: American Library Association, "State of America's Libraries Report 2017," accessed March 7, 2018, http://www.ala.org/news/state-americas-libraries-report-2017.